マイ・ドリーム バラク・オバマ自伝

 マイドリーム バラクオバマ自伝

感想

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝

 

 

この本は三部(起源、シカゴ、ケニア)からなりたっている。起源では、オバマの生い立ち、そして黒人であるという葛藤が書かれてあり、シカゴでは彼のオーガーナイザーとしての経験について述べられていた。特に、シカゴの部を読めば、彼がなぜアメリカの大統領に立候補することになったのか、つながりが見えてくる。ケニアでは、長年知ることのなかった祖父、父親の人生について書かれてあった。どの部でも、綺麗に着飾るのではなく、黒人として生きることの難しさ、憤り、虚しさなどが含まれ、そしてそれにどう対応してきたのか苦悩と葛藤とともに描かれていた。

 

気になった点

 

ロロ(インドネシア

彼はハワイで生まれ、アメリカ人の母とケニア人の父をもつが、幼少時に母が再婚しロロという新しい父親ができた。そして、現代で最も残虐な政権交代が起きてから間もないインドネシアで住むことになる。ロロは留学の途中で帰国を強制され、徴兵の対象になりニューギニアのジャングルで一年間過ごした。彼は、“力”によって人生を変えられ、どうすることもできず、ルールに従って生きるしかなかった。そして彼はオバマに強くなること、もしくは賢くなり強い者とうまくやるよう教えた。“人は他人の弱みに付け込むんだ。国と同じだな。強い者が、弱い者の土地を奪い取る。弱い者は強い者の畑で働く。弱い人の奥さんが美人なら、強い人が横取りする。”そして物乞いの人にお金をあげるよりも、そのお金を貯めて、自分が路上生活しなくてもいいようにならないといけないといった。いつ病気や事故が起こるかわからないのだから。ロロは貧困、汚職、社会不安定について語り、母親はアメリカ中西部の現実的ではない美徳を論じていた。

 

黒人の学生

ロロと離婚し、ハワイへ帰るとオバマは新しい学校へ行くことになる。ただ、そこには数人の黒人しかおらず、疎外感を感じ、人種差別について考えさせられる。ただ、彼の母親は白人であり、アメリカ本土で黒人があう悲惨な経験をしたわけでもない。しかし、彼は、白人のコートでプレイし、白人のルールに従うしかない、そして黒人であるという無力さと敗北を思い知らされた。彼ができることといえば、怒りの渦に引きこもるだけ、敵に襲い掛かろうとすれば、被害妄想、攻撃的、暴力的、ニガーと呼ばれるだけだと。一流大学に入学したが、その後も白人社会での彼の存在意義を探し続けた。

 

存在意義

彼は自分の心の傷の事ばかり考え、自分がちっぽけな乏しい者として見ていた。また、いつまでも自分は黒と白でもない部外者だという恐怖心のかたまりだった。しかし、“他人を批判する前に、自分を見つめなおせ”。“自分の事ばかり考えるな”。とレジ―に教えられてから、彼は今いる世界が自分が作り出したものではないが、どんな世界にしていくかを選択することはでき、それが彼の責任であることに気づく。そして、人種もアイデンティティーのひとつだか、アイデンティティーはそれだけではないもっと深いものだと信じるようになった。

 

マンハッタン

大学を卒業しマンハッタンで、多国籍企業コンサルタントの会社でリサーチアシスタントとして働くことになった。黒人は彼一人で、敵を後方から調べ上げるスパイのようだったが、会社の秘書は黒人を雇用したことがほこりのようだった。しかし、仕事をやめて、コミュニティーオーガナイザーになる計画を黒人警備員に話すと、もっとお金が稼ぐことを考えるようにとアドバイスをもらう。理想をおいかけても、その気のない人を助けられないし、大きなお世話と言われるだけだと。だが、彼は仕事をやめオーガナイザーになりシカゴで働くことになる。

 

オーガナイザー

オーガナイザーの給料は少なかったが、彼はマンハッタンで働くよりも意味があると考えた。黒人のまとめ役になり、変化を引き起こすために。そして、シカゴのオールドゲイト・ガーデンズ公営住宅団地で働くことになる。働き始めた頃は失敗もあったが、アスベスト問題などで地域に変化をもたらした。そして、なにより団地に将来はないとあきらめていた住人だったが、オバマは彼らとその団地にある問題を解決しようと試み、その後、住人達のコミュニティーに対する考えが変わり、希望を持ち始めた。ただ、オバマが来てから全ての状況が良くなったわけではない。子供たちは非行を繰り返し、すっかり変わってしまった地域もある。古い住民曰く、ここまで子供が非行に走ることは今までなかったと、そして、昔は言うことを聞いていた子供達も、今はもう止められなくなってしまったと。どうにでもなれ、と思っている奴は、相手がどんなに若くったって怖いと。

 

教育

子供達をみて、オバマは教育について考えるようになる。ジョニー曰く、公立学校は黒人を教育する場ではなく、社会を管理するためであり、白人の邪魔をしないようにするためなのだと。また、悪いのは子供ではなく、親だとも。女の子たちは少なくとも母親がいるが、彼らの半分は実の父親さえ知らず、男とはなにか教えてくれる親がいない。そんな空白を埋めるために、彼らの居場所を見つけ、周囲の環境を理解できるようになるための教育が必要だと。そんな時、オバマは、ハーバード大学に受かりシカゴを離れることをつたえる。ハーバードといえば金と権力の象徴みたいだが、そんなことに目がくらむことなく、必ずもどってくるといって。そしてジョニーは心配なんかしなくても、成功していくのを見るのが彼らの誇りだといった。

 

希望

 オバマは色々な教会を礼拝し、どこにも属していなかった。しかしライト牧師が美術館でみた 希望 という題名の絵についての朝の説教を聞き、涙し希望を持つようになった。その絵は、争いと貧しさに襲われていた山の頂上に座っている傷だらけのハープ奏者の女性の絵だった。そして、その絵が今の世界を表しているというのだ。絵と同じように、黒人達も毎日、拒絶、失望と経験をしているが、残された一本の弦を使って音楽を奏で神を崇めているハープ奏者と同じように、希望を持っていると。

 

ケニア

親戚に会いに行くためにケニアを訪れ、今までの知らなかった、祖父、父親について聞かされる。想像とは違い、祖父は白人の使用人として働き、誇りに思っていた父親は仕事、家族の事で問題を抱え、古い時代の厳格さ、概念、疑念、男性の残酷さばかりに執着していたと。そしてオバマは言う、苦悩を恥じる必要はなかった。恐怖を恥じることもない。恥ずべきは、恐怖が起こした沈黙だと。苦難を乗り越えた者だけが持つことのできる信念について、教えるべきだったと。そしてその信念は人種の違いからくるものではなく、他人を信じる気持ちだと。オバマにとって大切なものは、知性とか義務ではなく、もっと深いものだと。

 

 

 感想

最後の章にあった、苦悩、恐怖ではなく、沈黙を恥じるべきで、他人を信じる信念が大事という事について考えさせられた。オバマは黒人と白人の間に生まれ、そして白人社会の中で生きてきた黒人の苦悩を語った。人種についての恐怖を語った。そして、彼はシカゴでオーガナイザーとして、信念を持ち、それを人々に伝えた。そして、最後は、ケニアの親の人生を知った後、彼は、ケニアの父、祖父が逆境を乗り越えてきた力と、カンザスの最初の家にあった、他人を信じる信念を、大事に受け継いでいくと。ロロが言うように、生きていく為には強くなるか、強い者と上手くやる賢さも必要かもしれないが、オバマの母が言うような現実的ではない美徳も忘れてはいけない。ハープ奏者のように、傷だらけになりながら、弦一本で奏で、希望を持つ勇気。今の世界は変えられないが、これからの世界を選択していくことは、私たちにはでき、その責任がある。苦悩、恐怖を恐れず、苦悩を乗り越え、信念を持ち、他人を信じることをこの本は私に教えた。